「翔んで埼玉」の映画を見てきました。
翔んで埼玉は2016年あたりでブームになって、長いことコンビニに原作漫画が置いてあった作品です。
埼玉では2018年にもまだ置かれてました。
さすがに最近は見なくなったけど映画化でまた置かれますね、たぶん。
結果から言うと見に行って正解でした。
おバカも全力を注ぐと突き抜けた大作になるものだな、と。
そこで、前半は映画の感想や原作との相違点。
中盤に劇場の様子と埼玉特典(?)の紹介。
後半は魔夜峰央作品についての考えなどを書いてみました。
魔夜先生の神秘的なパワーを垣間見たことについても触れています。
なるべくネタバレしないように書きましたが、やはり多少はストーリーがわかってしまいます。
感想部分はなるべく映画を見てから読んでいただけると幸いです。
中盤後半だけ見たい方は目次からどうぞ。
※文中は敬称を省略しています。
翔んで埼玉(映画)の感想
★オープニング
オープニングの白い踊り子が集まる幻想空間を見た途端、出るのではと思ったらやっぱり登場。
魔夜先生結構出たがりだよね。
スターダスト計画では歌ってたしパタ西遊記の映像特典にも出演していた。
しかし埼玉は東京と横浜取った残り物だったのか…。
ブラザー・トムの軽トラはどこ走っているんだ?
アメリカの大規模農場ばりに一面田んぼだらけだ。
田んぼアートは見事だった。
★主役の二人
GACKTの麗はモロはまり役。あれを演れる人は他にいなそう。
年齢から高校生役がどうとか前評判あったけど、原作もまったく高校生に見えないので問題なし。
しかしあの衣装はマリス時代を思い出すね。月下の夜想曲。
そういやMOON CHILDとか新・北斗のころはGACKTの演技が大げさで気になったけど今作は違和感なかった。
二階堂ふみの百美も良かった。
あの髪型だからコスプレ感が出ちゃうかなと思ったけど、声質とか動きはきっちり少年ぽかった。さすが。
事前宣伝でサンドウィッチマンの飲食店探す番組に出演したとき、サクサク歩いていたのも好印象。
にしても恋に落ちるの早すぎ。
いろいろあるはずでしょう、葛藤が。
★千葉解放戦線
漫画にはないキャラだけど阿久津(伊勢谷友介)もいい味出してた。
海が自慢なだけあって常に海女さん二人を従えているのがシュール。
貝殻を耳に当てさせて「海の音を聞け~い」ってどんな攻撃だよ。
体中の穴という穴にピーナツ攻撃もしつこいわ。
千葉は東京の下僕的なポジションなので東京と名のつく施設が多いらしい。
東京ディズニーランド・東京歯科大学・東京ドイツ村・伊藤ハム東京工場…。フランチャイズなのか?
★GACKTのキスシーン
百美とのキスは髪で影になっているのでフェイクっぽい。
反対に阿久津とはがっつりしてた。
必要なのかね、あのシーン?
★埼玉デューク
漫画では名前だけの存在だった埼玉デューク役は京本政樹。
顔知らないけど合っている気しかしない。
デュークに隠された秘密は魔夜先生のアイデアっぽい。
単行本に描ききれなかった設定があるとあとがきで言ってた。
★茨城・群馬・栃木
原始時代みたいな描かれ方してた。
茨城に向かう常磐線は100年くらい前の車体が走っているし中は藁だらけ。
しかもヌーの大群が横切って列車が停まるという体たらく。
群馬にいたってはプテラノドン飛んでるし。
★神奈川
崎陽軒のシュウマイ一つでほぼ同盟に近いポジションをキープしてた。
なんだよ還暦記念のひょうちゃんって、と思ってググったら本当にあった。金のひょうちゃん。
竹中直人は歌上手いのね。
出番は少ないので友情出演みたいなものかな。
★埼玉の地名
劇中でよく出てくるのは所沢と春日部。
埼玉解放戦線の支部長どうしで大宮と浦和が仲悪いのは納得か。
「与野は黙ってろ!」と与野がやたら邪険にされるたび劇場内で笑いが起きていた。
というか地名が出るたびにウケていた。
私も面白かったが、ふと「これウケてるの県内だけじゃね?」と心配になった。
他県の映画館ではどうなんでしょ?
★合戦シーン
川を挟んで埼玉と千葉の軍団が対峙したのは壮観だった。
これか?エキストラを大々的に募集したシーンは。
出身地対決の流れもよかった。
小倉優子「弱い」小島よしお「もっと弱い」の流れは笑った。
パネル引っ込めなくてもいいじゃんね。
しかし市原悦子は強い。
★都庁前の最終戦
国道とめたりして迫力はあったけど川ほど無茶はできなかったみたい。
合成使ってたしアップも多かった。
阿久津との共闘は熱くなる。
「ここはオレに任せて先に行け!」
ベタなのがいい。
しかし百美はあのUMAだらけの秘境を越えてよく合流できたな。
母親の浮気が何かストーリーに絡むと思ったけど、何事もなく流された。
★エピローグ
都庁決着の後が意外に長い。
全国埼玉化計画。
しまむらやファミマが出店して住民がガリガリ君を食べると埼玉化になるらしいっす。
じゃあもうほぼ全国埼玉だよ。
そして新たにかかげられる世界埼玉化の垂れ幕。
手形制度はなくなったはずなのに何なんだこの領土拡大の動きは。
★主題歌はなわは正解
GACKTがいるのに主題歌をはなわにしたのはかなりの英断。
下手に荘厳な主題歌をつけると、作中のディスりが本気になっちゃうからね。
一揆がおきるわ。
しかし「埼玉県のうた」が再び日の目を見るときが来るとは。
何が幸いするかわからんな…。
「翔んで埼玉」原作との違い
これ原作は未完なんですよね。
しかもかなり短くて復刻コミックの半分、3話ぶんしかありません。
描かれているのは埼玉デュークが名前だけ出てくるあたりまで。
本格的な革命が起こる前にストーリーは途切れています。
理由はこのとき作者の魔夜峰央先生が埼玉から神奈川へ引っ越してしまったから。
埼玉県民としてなら自虐ですむけど、他県から描くと単に悪口になると気が引けたらしいです。
さすがに3話しかないとそのまま映画にするのは無理。
なので映画では、ストーリーの続きはもちろん原作にない要素がいろいろ付け足されています。
でも余計な改変をしていないのは好感が持てます。
たとえば百美を女の子設定にしちゃうとかね。
原作をリスペクトしているのが伝わりました。
伝説パートと現代パートの2部構成に
漫画では冒頭で「埼玉がディスられるこの世界」を架空のものと説明して物語が進みます。
映画ではこの世界を伝説パートとして表現。
現代パートの3人家族がラジオ(NACK5)で聞く都市伝説にしてしまいました。
都市伝説というかラジオ昔話ですね。
この構成はツッコミ役が生まれるのでかなりいい。
伝説パートは狂った世界観をみんな大真面目に演じているので、それだけ見続けるとさすがに疲れるから。
現代パートには父(埼玉出身)と母(千葉出身)のケンカという見どころもあります。
千葉・神奈川が物語に参入
原作漫画の勢力図はこんな感じ。
都民にも階級があるけど一番厳しいのが埼玉県との格差。
埼玉県人は忌み嫌われています。
それよりひどいのが茨城の扱いで、埼玉の一番奥からさらにローカル線で三日三晩荒野を走った先にある僻地とされています(女性は茨城の地名を耳にしただけで卒倒する)。
映画ではこれに加えて秘境の地として群馬県も登場。
さらに埼玉を敵視する千葉県が第三勢力として描かれています。
原作は東京VS埼玉でしたが、映画は埼玉VS千葉の話が中心になっています。
神奈川や栃木もちょろっと出てきますね。
要は一都六県ぜんぶ乗せになったわけです。
麗の一人称
原作で気になっていたのが麗の一人称。
自分のことを「麗は…」と名前で言うんですよね。
ここはさすがに直されていました。
男で自分を名前呼びっていないですよね?
麗の父がメチャ悪人面に
原作では割と愉快なオジサンだった麗の父が、映画では顔面白塗り状態になってます。
スケキヨにしか見えないっす。
顔怖いけど別に悪人じゃないというややこしいオジサン。
百美の立場がちょっと変化
原作では百美の祖父が理事長。
映画は百美の父が都知事という立場になっています。
麗の目的が国政(原作)から都知事(映画)に変わっているのでこれは仕方ない。
敵キャラを明確にしたという感じです。
モブだったZ組生徒が割と活躍
原作では
「埼玉県人にはそこらへんの草でも食わせておけ!」
と罵られるだけだったZ組生徒が戦いのキーパーソンに。
演じるのは舞台パタリロで主役だった加藤諒なので出番あるだろうなと予想はしてました。
ガードマンにも名前がついた
原作ではたんなる武装ガードマンでしたが、映画ではSATと名前付きの部隊になっていました。
サイタマ・アタック・チームの略。
埼玉県人を見ると「さ」の文字が浮かび上がるセンサーを装着しています(どういう原理だよ!)。
魔夜作品ではおなじみの形の電子銃を持っているのはちょっと嬉しかったです。
ただ制服はなんかダサい。
東京テイスティング
シャンデリアのような豪華な瓶に詰められた都内の空気。
それをワインのようにテイスティングして場所を当てる都会指数を計るテストのこと。
原作になかったこのテストで百美は麗に打ち負かされます。
空気をソムリエのように解説するバカバカしい雰囲気は作品にマッチしていると思います。
西葛西の空気が難易度高いらしいっす。
映画で導入された埼玉ポーズ
OKマークにした両手を胸の上でクロスするのが埼玉ポーズ。
県鳥のシラコバトと埼玉の玉を意味します。
くそダサいのに物語後半では格好良く見えてくる不思議…。
踏み絵が写真からせんべいに
都会指数が高くセンサーに反応しない埼玉県人をあぶり出す踏み絵。
原作では県知事の写真を踏ませていましたが、映画では草加せんべいを踏ませます。
せんべいの裏にはシラコバトのイラスト入り。
どっちでもいいわ。
埼玉スペシャリティが増量
原作では草加せんべい・秩父セメントくらいしか出なかった埼玉名産ですが映画ではかなり増量されていました。
深谷ネギ・山田うどん・十万石まんじゅう・狭山茶・ガリガリ君・しまむら・ファミリーマート・東武動物公園など。
劇場の様子と埼玉特典
本場(?)春日部の映画館で観覧しました。
春日部は埼玉解放戦線の秘密拠点であり、サイタマラリヤを持つ蚊の住処でもあるのです。
オリジナル顔出しパネルが設置されていました。
顔を出すだけであなたも春日部支部長に早変わり!
麗・百美・デューク・阿久津の看板がずらり。
並べると格好いいですね。
V系バンドのポスターみたい。
文字を見ると力抜けますが…。
当日券で入ったのになぜか特典がもらえました。
初日だから?
それとも埼玉県の映画館だからかな。
とりあえず特典の一つ通行手形です。
木に見えるけどただのシール。
Suicaに貼れば埼玉から東京に入れるのだ。
そこらへんの草。
じゃなくて県民が愛する高級野菜の種です。
腹痛はこれで治す。
メッセージからすると完全に埼玉限定で配っているみたいですね。
中身は野生種のルッコラでした。
もちろん食べられます。
最後は埼玉新聞。
もらった時はニセ新聞だと思ったけど、どうもマジの新聞社が刷ったみたい。
いっちょ前に広告まで入っています。
裏には出演者インタビューや監督・作者の対談。
県知事や市長まで寄稿してます。
県をあげてのバックアップぶりがすごい。
どれだけ期待されているんでしょ、この映画は。
魔夜峰央作品について
映画に微妙に関係ありそうな考察を2つ書いてみます。
どちらも魔夜峰央作品についてです。
魔夜作品はバトル漫画
魔夜峰央先生の作品といえばその絵柄から、耽美な少年愛を描く少女漫画家のイメージが強いかもしれません。
しかしそれは作風の一部分です。
実は結構バトル物のストーリーも描いています。
代表作のパタリロはなんといっても国王ですから、商売敵や敵国のスパイから命を狙われまくりです。
しかも本人が時間移動の能力を持っているので、フランス革命に放り込まれたり大英帝国と対峙したり30世紀のタイムパトロールから刺客を送られたりのバトル三昧。
ついでにいうとマリネラ(国)がバミューダトライアングルに位置するので、妖怪・幽霊・地球外生命体など物の怪の類もちょこちょこ出てきます。
悪魔の大軍勢に攻め込まれたこともありました。
そういうガチバトルばかりでなく、心を持った雪だるま・正月の神様・わざと痛くする闇の歯医者軍団のような設定ありきのギャグっぽい戦いもあります。
翔んで埼玉もこのパターンの一つですね。
魔夜先生の他作品を見ても
- 不良少年の抗争(Vマドンナ)
- 超能力バトル(ゼロ星)
- 天使VS悪魔+クトゥルー(アスタロト)
- クトゥルー邪神(オーロラ王魔が刻)
- VS妖怪(妖怪始末人トラウマ!!)
- VS宇宙人(邪神ハンターピーチドラゴン)
- 猫VS悪の猫軍団(横須賀ロビン)
- VG毒師ギルド(毒師プワゾン)
- 陰陽師バトル(パタリロ源氏物語)
- VS牛魔王(パタリロ西遊記)
- 半妖VS魔王(マザリシャリフ)
と80年代のジャンプもびっくりの戦いっぷりです。
これだとバトル漫画の大家といってよくない?ダメ?
また、先生がSFやミステリーファンなことから頭脳バトルの側面を持つストーリーも多くあります。
少女漫画でしょ、と敬遠していた人はぜひこれを機に読んでみてください。
映画化は予言されていた!?魔夜峰央のスピリチュアルパワー
魔夜先生はスピリチュアル漫画家!というエッセイも出しています。
このエッセイは翔んで埼玉が再注目された2016年に発行されました。
スピリチュアルというと胡散臭いですがそんなに怪しい内容じゃありません。
これまで語られなかった漫画家人生の話や、人生の節目で起こった転機に何者かの意志を感じる…みたいな話です。
私はその手の話をあまり信じないので最初読んだときは「ふ~ん」としか思いませんでした。
で、映画前にもう一度読み返してみたら「むむっ」と驚いた箇所があったので紹介しておきます。
先生いわく翔んで埼玉が復刻される4年前の11/2に、夢の中でお告げのようなものを聞いたそうです。
派手なパーティー会場に集まる外国の少年少女たち。
その光景と重なるように
「成就」
という男の声が聞こえました。
さらに3日後には声だけがもう一度。
「すごいぞ」
と。
その後先生は金銭的に困窮する冬の時代に突入します。
貯蓄を切り崩してやりくりしていましたが、その間にもときおり「どーんと構えていなさい」「動くな」など声だけのお告げがありました。
そして資産をちょうど使い切ったときに、テレビで翔んで埼玉が取り上げられて作品の再販によりピンチを脱しました。
復刻版はコンビニにも置かれまくりましたから売り上げは相当でしょう。
後から調べると番組が放送されたのが11/2。
あの「成就」というお告げはこれのことだったのか、と驚いたそうです。
正直、この話は振り返りのいわゆる「後出し」なので、読んでいる私としてはあまりインパクトは感じません。
先生が嘘をついているとも思いませんが…。
びっくりしたのはそのあとの文章です。
そして今、少し期待していることがあるんです。私は「成就」とお告げをもらってから3日後に「すごいぞ」という言葉ももらっているんですよ。だから、タイムラグを考慮すると……これから3年ぐらい経ってから、またすごい出来事があるといいな、と。
引用 スピリチュアル漫画家!105P
翔んで埼玉の復刊とスピリチュアル漫画家!の発売日から考えると、この文章が書かれたのは2016年の前半と推測できます。
そこから3年後の2019年に作品が映画化。
魔夜先生の作品が映画になったのは1983年の一度だけなので、実に36年ぶりの映画化です。
しかも映画のプッシュされ具合は半端ない(CM打ちまくり)。
これは「すごい出来事」に入れてもいいですよね。
エッセイを読み返していてこの文章が目に入った時はさすがにちょっとビビりました。
ちなみにパタリロも年内に実写映画化される予定です。
年に2つ映画あればお告げ確定でしょ。
復刻されているオリジナルタロット買おうかな…。
まとめ
演台まわりのバラや百美が残した美麗な原画など作中に散りばめられたエッセンス。
世界観を壊さずに長編へと消化させたストーリー構成。
バカバカしいシチュエーションを超がつくほど本気でやっちゃう姿勢。
翔んで埼玉は全編に作り手の愛を感じる作品でした。
まだ見ていなければぜひご覧ください。
【追記】匠大塚が美術協力していたらしい
先日、所用で匠大塚に行ったらこんなポスターを発見。
企業として美術協力していて、匠大塚の家具が実際に映画の中で使われていたそうです。
どこだろ?
生徒会室・東京テイスティングの会場・都知事室あたりかな。
これらの家具はお店で普通に買えます。
【追記】レイクタウンのパタリロ複製原画展を見てきた
2018年はパタリロの40周年と100巻発売のメモリアルイヤーで様々なイベントが開催されていました。
で、映画の余勢をかってか今年も引き続きイベントを行っているお店があります。
そんなお店のひとつ、埼玉のイオンレイクタウン内にある未来屋書店さんを見てきました。
開催されていたのはパタリロ複製原画の展示です。
こんな感じで割と雑然と複製原画・関連本がディスプレイされています。
つーか、複製とは言え原画もろ出しで大丈夫なんすかね。
隣の柱にも原画がいっぱい。
ガステレビの話だから3巻あたりのエピソードかな。
今とはキャラの輪郭が全然違いますね。
ただ、白黒で写植までばっちり打たれているので生原の雰囲気はあまりないです。
すげー綺麗な拡大コピーみたい。
まあもともと魔夜先生の生原稿はきれいすぎて印刷されたのとあまり変わらないらしいですが…。
一つでいいからカラーの複製もあると良かったっす。
もちろん翔んで埼玉も平積みされています。
もとの原作本もあるし別帯がついた映画バージョンも。
右列は翔ばして埼玉という新刊です。
流れているのは映画の予告+書店キャンペーン用の映像でした。
推されっぷりが半端ねー。
持っていない本を普通に購入。
特典などはとくにありませんでした。
複製原画展は終わっちゃったとこが多いですが、まだ開催中の書店もあるのでお近くの方はぜひ。
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